
・オムロンの株価が下落しているのはなぜ?
・競合と比較した強みや弱みは?
・今後の株価や企業の将来性は?
このようなお悩みを解決します。
🔰かぶリッジの結論
- オムロンは、大口顧客への過度な依存と事業構造の脆弱性により株価が下落した
- 同業他社と比べて製品ラインナップが豊富で高水準な配当利回りだが、業績は一歩劣る
- オムロンの今後は構造改革による効果と海外展開に期待
オムロン株式会社(以下、オムロン)は、社会システム、ヘルスケアなど多岐にわたる事業を展開する企業です。
制御機器、電子部品、駅の自動改札機や太陽光発電用パワーコンディショナーなどの製品を提供しています。
そんなオムロンは、直近1年で35.3%も株価が下がり、現在も下落中です。
オムロンの株価が下落している理由は何でしょうか。
そこで今回は、オムロンの株価が下落した理由や今後のオムロンの将来性についてわかりやすく解説していきます。


執筆:かぶリッジ編集部
かぶリッジは、20年以上にわたり投資家向けサービスを提供する株式会社インベストメントブリッジが運営しています。日本株投資や米国株投資を実践する編集部メンバーや、現役の証券アナリスト、元証券会社勤務の社員等で運営しています。
※本記事の注意事項
正しい情報をお伝えするために随時更新を実施しますが、掲載内容には古い情報、誤った情報が含まれることがございます。
また、本記事でご紹介する企業や投資商品はすべて情報提供目的であり、投資を推奨・勧誘する目的はございません。
情報の取捨選択や投資判断は各ユーザー様のご判断・責任にてお願いいたします。
※掲載内容へのご指摘につきましては、お問い合わせフォームより受け付けております。
オムロンの株価が下落した理由は?3つの観点から解説


💡このパートの要約
オムロンの株価が下落した理由は…
- 大口顧客への過度な依存
- 事業構造の脆弱性
- 投資家の不信感の高まり
まずはオムロンの株価推移を見てみましょう。
新型コロナが落ち着いた2021年は、半導体やEV関連の需要高により株価が順調に上昇していました。
一方で、2022年以降から急激に株価が崩れ、その後下降し続けています。



ここ1年でまた株価が下がっているね。
2024年8月以降の1年間の株価推移を見てみましょう。
2024年8月~10月で株価がやや上昇するも、その後株価が下落しています。



どうしてここまで落ちているんだろう…
ここからは、オムロンの株価が下落した理由を3つ解説します。
大口顧客への過度な依存
オムロンの株価が急落した理由の1つとして、制御機器事業における大口顧客への過度な依存が挙げられます。
中華圏向けの売り上げは全体の2割を占めており、電気自動車(EV)用の電池メーカーや半導体メーカーなどへの依存度が高かったことが影響しました。



中国景気はどのような推移だったのかな?
まず、中国景気を表す実質GDPとPMI(購買担当者景気指数)を見てみましょう。
景気の方向性を示す経済指標。
企業の購買担当者に新規受注や生産、雇用の状況などを聞き取り、景況感についてアンケート調査した結果を指数化したもの。
50を上回る状態が続くと景気拡大、逆に50を下回る状態が継続すると景気減速を示す。
引用元:野村証券
2021年初頭はコロナショックが明けたことによってGDPは成長していましたが、2021年後半~2022年で中国景気が低下していることがわかります。



この時期の同社の業績推移はどうだろう?
続いて、制御機器事業の業績推移を見てみましょう。


制御機器事業 | 2021/3期 | 2022/3期 | 2023/3期 | 2024/3期 | 2025/3期 |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 3,356 | 4,181 | 4,857 | 3,935 | 3,607 |
営業利益 | 571 | 762 | 858 | 214 | 362 |
営業利益率(%) | 17.0 | 18.2 | 17.7 | 5.5 | 10.1 |
中国景気減退から時間差で打撃を受けていることがわかります。
特に、2024年第1四半期連結決算では、主力事業であるFA(ファクトリーオートメーション)事業の売り上げが不振で15年ぶりの赤字となりました。
これは、中国の大口顧客が景気減退により設備投資を延期・縮小したことに加え、中国FAメーカーとの価格競争が激化していることが考えられます。



FA事業の失速は痛手だね…
同様にヘルスケア事業でも、中国の個人消費の減退により売り上げは横ばいとなっています。
このように中国の大口顧客への過度な依存が制御機器事業の業績に直結したと考えられるでしょう。
事業構造の脆弱性
制御機器事業の業績悪化に加え、事業構造の問題が露呈していました。
具体的には次の2つです。
需要予測の甘さ
1つ目は、需要予測能力が不足している点が本質的な要因と考えられます。
2024年3月期第2四半期決算発表にて、2023年度通期見通しを下方修正。
特に、制御機器事業、電子部品事業のセグメント別見通しを下方修正しました。
その後、2024年3月期第3四半期にて2023年度通期見通しをさらに下方修正。
当期2度目、2期連続の下方修正であったため、株主の不信感が高まることに。
実際に、この下方修正を受け、株価は前日比-15.27%となるストップ安まで急落しました。



連結純利益は前期比98%減となったよ!
業績悪化に加え、市場の変化を読み切れなかった経営判断のミスが株価下落を加速させる結果となりました。
過剰在庫問題
事業構造の脆弱性として考えられる2つ目の要因は、過剰在庫による収益性の圧迫です。
2023年3月期にFAの供給網(サプライチェーン)の強化を目指し、多めに調達した部品の消化が進まないことが一因となりました。



そもそも多めに部品を調達していた理由は何だったのだろう?
コロナ渦が明け、以下の要因によって需要が拡大し、生産を増やしました。
- 制御機器事業:半導体・EV・5G関連の設備投資ブーム
- ヘルスケア事業:コロナによる健康意識の高まり
しかし、その後2022年度3月期第4四半期~2023年度第2四半期は代理店在庫が過剰にある状況に。



ここでは、代理店在庫水準1.0が理想だワン!
受注水準は横ばいになっている一方、代理店在庫水準は2.0を超えており在庫の消化が進みませんでした。
代理店過剰在庫問題も業績悪化の要因の1つと考えられます。
投資家の不信感の高まり
株価下落の3つ目の要因は、投資家の不信感の高まりです。
2024年2月に、収益力と成長力の改善を目的とした構造改革を発表。
2025年9月までに国内外で合計2,000人の人員を削減し、2026年3月期には固定費を約3,000億円圧縮するとしています。



2,000人も!?
前述した2度の下方修正に加え、この大規模リストラが深刻さを増幅。
同社が大規模な人員削減に踏み切るのは、2002年のITバブル崩壊後から22年ぶりの発表だったこともあり、株主の不信感は高まりを見せました。
無料メルマガ登録で豪華特典プレゼント


※登録後、メール画面から登録解除も可能です。
オムロンの事業内容・業績


💡このパートの要約
- オムロンは主に制御機器事業やヘルスケア事業など5つの分野に分かれる
- 2025年3月期の営業利益は+57.4%の540億円
- 2026年3月期は、営業利益+3.6~20.3%、最終益+78.2~118.2%を見込む
オムロンの事業内容と業績について見ていきましょう。
事業内容
オムロンは、以下の5つの事業を展開しています。
- 制御機器事業
- ヘルスケア事業
- 社会システム事業
- 電子部品事業
- データソリューション事業
それぞれの事業内容については、各項目をクリックしてご確認ください。
制御機器事業
工場の自動化に必要な制御機器、センサー、産業用ロボット関連機器などを提供するファクトリーオートメーション(FA)事業。
売上高の45%を占める同社の主力事業。
ヘルスケア事業
血圧計をはじめとする家庭用医療機器の製造・販売を行う事業。
血圧計など医療機器から集めたデータと、健康診断結果などのデータを掛け合わせて、生活習慣病を防ぐ予防医療ビジネス も展開。
社会システム事業
センシング&コントロール技術を基盤に、鉄道や道路交通、エネルギー、決済、コミュニティなどの分野で事業を展開している。
太陽光発電システム用のパワーコンディショナーや蓄電システムを提供し、低炭素社会の実現を目指しているエネルギーソリューション事業も展開。
電子部品事業
高機能・高品質な電子部品やデバイスを、モバイル機器、家電、自動車、産業機器、バイオテクノロジー関連製品など幅広い分野に提供。
特に、小型化、高機能化、高精度化に貢献する部品を提供し、クリーンエネルギー車などの分野にも注力している。
データソリューション事業
データ収集から活用まで一気通貫で支援する業務改善サービスや、生成AIソリューション、データ収集ツール、BPRサービス、DX認定支援サービスなどを提供。
さらに詳しく知りたい方は、同社HPの事業紹介ページも参考になります。
業績
直近5年の業績推移を見てみましょう。
2021/3期 | 2022/3期 | 2023/3期 | 2024/3期 | 2025/3期 | |
---|---|---|---|---|---|
売上高 | 6,555 | 7,629 | 8,761 | 8,188 | 8,018 |
営業利益 | 625 | 893 | 1,007 | 343 | 540 |
税引前純利益 | 651 | 867 | 984 | 350 | 290 |
当期純利益 | 433 | 614 | 739 | 81 | 163 |
ROE(%) | 7.6 | 9.7 | 10.6 | 1.1 | 2.1 |
2023年3月期までは売上高・営業利益ともに増収増益でしたが、2024年3月期には利益が大きく落ち込んでいます。
2025年3月期は減収増益となりましたが、回復傾向にあるため2026年3月期は増収増益を見込んでいます。
2026年3月期 業績予想
- 売上高:8,200~8,350億円(前期比2.3~4.1%)
- 営業利益:560~650億円(前期比3.6~20.3%)
- 当期純利益:290~355億円(前期比78.2~118.2%)
オムロンの強み・弱みは?同業他社と徹底比較


それでは、オムロンの強みや弱みをそれぞれ見ていきましょう。
製品ラインナップが豊富で、市場シェアが高い
オムロンの強みの1つ目は、製品ラインナップが豊富であることです。
そして、これに伴って高い市場シェアを誇っていることも強みの1つと言えるでしょう。
特に、同社の一番力を入れている制御機器事業では20万点以上の製品を扱っており、国内シェアの40%を占めています。


60年以上にわたってセンシング技術を蓄積しており、この分野では業界トップクラスを誇ります。
また、ヘルスケア分野では、血圧計で世界シェアNo.1を誇り、累計販売数は2億台超です。


家庭用電子血圧計は世界シェア50%を誇ります。
そして、視聴率・ユーザー評価・売上貢献度の3つの観点から調査したBtoBサイト調査 2025では、BtoBサイトランキングにて制御機器分野で第2位、電子部品分野で第3位を獲得しています。
順位 | サイト名 | 製品・サービス名 | BtoBサイトスコア(%) |
---|---|---|---|
1 | 三菱電機(FA) | FA(制御機器等) | 59.4 |
2 | オムロン(制御機器) | FA(制御機器等) | 57.4 |
3 | オムロン(電子部品) | 電子部品・材料 | 50.4 |
4 | キーエンス | FA(制御機器等) | 50.2 |
5 | ヤマト運輸(法人のお客様) | 物流 | 42.4 |
ただし、BtoBサイトスコア=アクセス率×ニーズ充足率
このように、製品ラインナップの豊富さや顧客満足度が高い点は同社の強みと言えるでしょう。
業績が低迷している
直近の業績はオムロンにとってかなりのマイナス要素です。
下の表に同社と競合他社の最新通期決算をまとめました。
企業 | 売上高 | 営業利益 | 当期純利益 |
---|---|---|---|
オムロン | 8,018 | 540 | 163 |
三菱電機 | 55,217 | 3,919 | 3,241 |
キーエンス | 10,591 | 5,498 | 3,987 |
ファナック | 7,971 | 1,588 | 1,476 |
同社は三菱電機、キーエンスに次ぐ売上高です。
特に、三菱電機は総合電機メーカーであり、インフラや産業用大型システムを主な事業領域としているため売上高が大きくなっています。
また、キーエンスはオムロン同様、FA分野の専門メーカーですが、「高付加価値・高利益率」戦略を徹底しているため独自技術を高価格で販売しています。
これにより、小規模の事業領域で小型製品を販売する同社は同業他社と大きな差が開いているのが現状です。



直近の業績の推移はどうなのかな?
オムロンを含む各社の業績推移は以下の通りです。
三菱電機やキーエンスは安定して増収増益を続けている一方、ファナックは24/3期に一時的な業績の落ち込みが見られました。
オムロンは同じ24/3期に大幅減益となり、落ち込み幅はファナックを上回っています。
そして、その後の回復も遅れている状況です。
高水準な配当利回りをどう捉えるか
続いて、配当利回りの観点から同業他社と比較してみましょう。
企業 | 配当利回り |
---|---|
オムロン | 2.66% |
三菱電機 | 1.48% |
キーエンス | 0.61% |
ファナック | 2.07% |
同社は同業他社と比較しても配当利回りが高水準です。



なぜ同業他社と比較して、配当利回りが高いんだろう?
配当利回りが高水準である理由として、株価下落に反した配当維持政策にあります。
まず、同社の配当金と配当利回りの推移を見てみましょう。


前述した通り、2023年以降株価は大幅に下落しているのに対して、配当金は維持されています。
これにより、同社の配当利回りは高水準となっているのです。



業績が低迷していても配当は維持できるの?
同社は、株主資本配当率3%程度を目安に、安定的かつ継続的な還元に努めています。
また、構造改革期間においても必要な投資を最優先で実施するものの、株主還元方針は変えないという意志を貫いているのでしょう。



株価が下落する2022年以前は、他社と同程度の配当利回りだワン!
無料メルマガ登録で豪華特典プレゼント


「石破総理で日本株はどうなる?」
「割安高配当株・割安成長株の探し方は?」
といったテーマのセミナー資料をご覧いただけます。
※登録後、メール画面から登録解除も可能です。
オムロン株は買うべき?将来性を分析


💡このパートの要約
- 構造改革による効果に注目
- 収益性の改善が課題
- 直近での買いは避けた方が無難
オムロンの株価や配当は今後どうなっていくでしょうか。
将来性や今後の見通しを分析していきます。
構造改革による効果に注目
今後のオムロンに期待したい要素として、構造改革による効果が挙げられます。
2024年2月に同社は構造改革プログラム「NEXT 2025」を決定しました。
構造改革の内容としては大きく以下の2つが挙げられます。
制御機器事業(IAB)の早急な立て直し
メイン事業であるIABの早急な立て直しについては、中国依存を低減する業界・エリアポートフォリオの構築を進化させます。
また、最もカギとなる製品の競争力強化による新たな提供価値の拡大を目指しています。


中長期的な事業戦略
さらに、経営施策として固定費生産性の向上も挙げています。
価値創造の加速に向け、組織・人財の能力転換を目的に、人員削減と人件費構造の構築を推し進める方針です。
人員削減では、国内約1,000名、海外約1,000名の合計2,000名に対し希望退職者を募り、固定費削減に努めています。



固定費削減は中長期的な事業戦略として有効だね!
構造改革の成果を織り込む一方で、成長投資も積極的に行っています。
2025年3月期の決算説明会では、制御機器事業を中心に成長投資を125億円反映し、140億円の固定費増加を計画していることを発表しました。
構造改革で得た資金を研究開発費に充填することで、長期的な事業成長を見込んでいます。



研究開発費がどのくらい充てられるかというのも投資家にとって重要な指標だワン!
これらの理由から、受注水準は緩やかながらも回復を想定しているため、短期的な業績は上がらないという予想です。
直近での買いは避けた方が無難でしょう。
収益性の改善が課題
オムロンの課題として、収益性の改善が挙げられます。
総合力と製品の幅広さでは強みを持つものの、専門性・収益性・市場シェアの面で主要競合他社に遅れを取っている印象です。
前述した構造改革に加え、海外事業展開による収益性の改善も求められています。



オムロンってオランダにも工場があるよね!
2025年3月期には、エリア事業構造の最適化を目指す方針を示しました。
米州や工場のある欧州での事業展開を強化していく予定ですが、外部環境への適応力不足が懸念点となりそうです。
中国の大手顧客に依存したことにより、中国経済に左右された過去がありますから、今後は他国の政治的要因に対する備えも十分にする必要があるでしょう。
【まとめ】オムロンの株価が下落した理由





オムロンの株価が下落した理由について、よくわかったよ!
最後にこの記事の重要なポイントをまとめます。
かぶリッジの結論
- オムロンは、大口顧客への過度な依存と事業構造の脆弱性により株価が下落した
- 同業他社と比べて製品ラインナップが豊富で高水準な配当利回りだが、業績は一歩劣る
- オムロンの今後は構造改革による効果と海外展開に期待
オムロンは、中国大口顧客への過度な依存と、事業構造の脆弱性により株価が下落しました。
高水準な配当利回りが維持されていますが、業績の回復はもう一歩といったところ。
構造改革の効果による短期的な回復は見込めないため、業績が安定するまでひとまずは投資を保留した方が無難でしょう。