JT株は買ってはいけないの?
高配当株だけど将来性はある?
このようなお悩みを解決します。
かぶリッジの結論
以下の理由から、JT株への投資には注意が必要です。
- 配当減少や株価下落のリスクが高い
- たばこ市場の縮小により、海外たばこ事業に頼るビジネスモデルはリスクが高い
- ESG投資の流行により投資家が離れるリスクが高い
日本たばこ産業(JT)は、たばこ事業を展開する特殊法人です。
JT株は人気の高配当株のひとつなので、これから購入したいと思っている方も多くいるでしょう。
とはいえ実際に高配当を得られるのか、たばこ事業に頼るJTの将来性は大丈夫なのか不安に思う方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、JT株を買ってはいけないと言われる理由やJTの将来性について分かりやすく解説していきます。
執筆:かぶリッジ編集部
かぶリッジは、20年以上にわたり投資家向けサービスを提供する株式会社インベストメントブリッジが運営しています。日本株投資や米国株投資を実践する編集部メンバーや、現役の証券アナリスト、元証券会社勤務の社員等で運営しています。
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JT株はなぜ買ってはいけない?理由3つを解説
JT株を買ってはいけないと言われる理由は、1つではありません。
大きく以下の3つに分けて、考察していきましょう。
①配当減少や株価下落のリスク
JTの高配当の維持が危ぶまれることを示唆する報道がありました。
2024年3月14日の日経新聞朝刊によると、JTが海外子会社から受け取った配当8億ドル(約1200億円)を返還した結果、同社の配当計画に支障が出る形となりました。
税金リスクを回避するために、海外子会社から受け取った配当を返還することにしたんだ。
その結果、JT単体としての利益が減少し、23年12月末と24年6月末の合計配当額が上限を超えてしまう可能性があると指摘されました。
ですが、最終的には、3月の株主総会で株主資本のうち「資本準備金」(配当可能額に含まれない金額)を、「その他資本剰余金」(配当可能な金額)に振り替える議案が可決され、予定通り配当は支払われました。
今回は大丈夫だったけど、少し心配になるニュースだったよ。
②たばこ市場の縮小
近年、国内外で喫煙者は減少し、たばこ税は増加傾向にあります。
まず、国内喫煙者数の推移を見てみましょう。
調査によると、国内の習慣的に喫煙する人の数は下降傾向にあるようです。
喫煙者数の減少に伴い、国内の紙巻たばこの販売数も減っています。
さらに、国内の紙巻たばこの税率は徐々に高くなっています。
海外のたばこ市場はどう変化しているのかな?
海外の喫煙率も低下傾向にあります。
WHOの調査によると、2020年時点には世界の喫煙率が21.7%となり、今後も喫煙率は低下し続けると考えられます。
また、海外の規制もますます厳しくなっています(下記は一例)。
- JTの主要市場ロシアでは、たばこの店頭陳列規制や販促禁止等の実施
- EUでは、「たばこ製品指令」に基づき加熱式たばこを含む製品に規制が適用
- 英国では、法律で特定の年齢層へのたばこの販売が禁止に
JTはロシアでの事業を現在も続けているけれど、国際情勢の変化が大きく影響してきそうだね……
③ESG投資の流行
近年、環境・社会・企業統治に配慮した投資であるESG投資が広がりを見せています。
ESG投資の流行により、たばこを販売するJTへ投資する人が減ってしまうリスクがあります(下記は一例)。
- ニュージーランドの政府系ファンド、ニュージーランドスーパーファンドやノルウェー政府年金基金などがJT株を投資対象から除外
- 2023年8月、日本生命保険がESG対応強化の一環として、たばこ関連銘柄を投資対象から除外すると発表
たばこ関連企業は絶対にESG投資の対象から外されてしまうのかな?
ESG投資の対象になり得ることもあります。
実際に、JTは以下のような取り組みが評価されています。
- 「JTグループ環境計画2030」を策定(2019年)
- 気候変動および⽔セキュリティに関する取り組みで最高評価を獲得(それぞれ6回目、4回目)
- 全国9カ所にある「JTの森」で森の手入れを支援
同社はESG指標として、温室効果ガス排出削減目標を設定しているワン!
しかし、たばこによる健康被害から、たばこ関連企業はESGとは遠い存在と捉えられてしまいがちなのも事実です。
機関投資家が離れてしまうリスクもあるんだね。
JTはなぜ高配当?配当・株価推移を分析
高配当株として知られるJT株。
実際にJTは2026年12月期まで「配当性向75%」を目安としており、株主還元に力を入れています。
では、JTはいったいなぜ高配当なのでしょうか。
株価推移や配当推移のデータとともに見ていきます。
JT株は「豊富なキャッシュ」が高配当の秘訣!
JT株が高配当である理由として、安定かつ高い収益性によるキャッシュの多さがあるでしょう。
このように「安定かつ高い収益性」を実現できている原因としては、以下の2つが考えられます。
- 海外でのたばこ需要の拡大
- 国内の愛煙家による安定したたばこ需要
そして安定かつ高い収益性の結果として、高い自己資本比率を実現できています。
以下の表をご覧ください。
年度 | 自己資本比率 |
---|---|
2023年度 | 52.6% |
2022年度 | 54.1% |
2021年度 | 48.7% |
2020年度 | 46.9% |
2019年度 | 48.0% |
表の通り、自己資本比率は50%前後で推移しており、2023年度には52.6%となっています。
一般的には、自己資本比率は30%以上で安定企業、50%以上で優良企業です。
自己資本比率から、JTは財務が健全であることが分かるね!
また、JTは自己資本利益率(ROE)も高水準です。
上のグラフの通り、ROEは12-13%台で推移中です。
一般的にROEは8-10%が目安で、10%を超えると投資価値がある優良企業だと言われます。
ROEは、企業がどれくらい効率よくお金を稼いでいるかを示す指標だワン!
つまり、豊富な自己資本をもとに効率的に経営をすることで、さらなる自己資本を生み出しているのです。
このように、国内外のたばこ需要によって「安定かつ高い収益性」を実現し、これによって潤沢なキャッシュがあるからこそ、高配当を実現できていると言えるでしょう。
配当推移
JTグループの2023年度の1株当たり配当金は194円となりました。
1株当たり配当金の推移を見てみましょう。
年度 | 中間 | 期末 | 年間 | 連結配当性向 |
---|---|---|---|---|
2024年度 | 97円 | 97円(予想) | 194円(予想) | 73.8%(予想) |
2023年度 | 94円 | 100円 | 194円 | 71.4% |
2022年度 | 75円 | 113円 | 188円 | 75.4% |
2021年度 | 65円 | 75円 | 140円 | 73.4% |
2020年度 | 77円 | 77円 | 154円 | 88.1% |
2019年度 | 77円 | 77円 | 154円 | 78.6% |
2018年度 | 75円 | 75円 | 150円 | 69.7% |
2017年度 | 70円 | 70円 | 140円 | 63.9% |
2016年度 | 64円 | 66円 | 130円 | 55.2% |
2015年度 | 54円 | 64円 | 118円 | 53.2%※ |
2014年度 | 50円 | 50円 | 100円 | 50.1% |
2013年度 | 46円 | 50円 | 96円 | 40.8% |
2012年度 | 30円 | 38円 | 68円 | 37.6% |
同社HPより作成
2023年度は利益の70%以上も配当に回したんだね!
配当額は年々増加傾向にあります。
配当性向が最も高かったのは2020年度の88.1%でした。
株価推移
こちらは、2004年以降のJTの株価推移です。
2016年から始まった株価の下落は2021年には落ち着き、そこからは順調な上昇を続けています。
しかし、24年8月16日に日系大手証券会社は、JTのレーティングを中立に据えおきました(株予報Pro参照)。
NISAで注目された銘柄なだけに人気は高いけど、今後は要ウォッチだね。
株主還元
2023年の株主優待商品の発送をもって、JTの株主優待制度は廃止されました。
以前は自社グループの食品セットを株主優待にしていましたが、現在は配当を中心とした株主還元へと変更しています。
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JTの事業内容・業績
JTの株の3分の1は日本政府が保有しているため、JTの完全な民営化はされていません。
同社が新しい事業を始める場合、財務大臣の認可が必要となります。
筆頭株主が財務大臣だなんて、知らなかったよ!
事業内容
JTは以下の3つの事業を運営しています。
たばこ事業
JTは「グローバルたばこカンパニー」として130以上の国と地域で事業展開をしています。
以下のブランドは、世界的な地位を誇る同社のたばこブランドです。
- ウィンストン
- キャメル
- メビウス
- LD
近年は、健康に配慮した「リスク低減製品(RRP)」にも注力し始めました。
医薬事業
1987年に始動した医薬事業では「オリジナル新薬の創出」を目標に掲げています。
1998年、同社は鳥居薬品(株)をグループ会社に迎えました。
加工食品事業
加工食品事業は、冷食・常温事業と調味料事業の2つに分かれます。
冷食・常温事業では冷凍うどんやパックご飯等を販売しており、主導企業はテーブルマーク(株)です。
調味料事業では富士食品工業(株)を中心に、海外4拠点も含めて様々な調味料の販売を行っています。
業績
2023年度の実績は、売上収益から当期利益まで過去最高を記録しました。
では、2021年度~2023年度のセグメント別売上収益を見てみましょう。
たばこ事業の売上収益が約9割を占める形となっています。
同事業の売上収益は順調に伸びていますが、その他事業では厳しい状況が続いているようです。
たばこの地域別売上はどうなっているのかな?
アジア地域での売上収益の割合が徐々に低下しているね……
今後はさらにアジア地域以外のたばこ売上収益に頼るビジネス構造となっていくかもしれません。
実際に24年8月21日には、米国4位のたばこ会社「ベクター・グループ(VGR)」を約3,780億円で買収することを発表し、同年10月7日付でVGR社を完全子会社としました。
これによって、米国市場でのシェアが2.3%から8.0%に大幅に拡大すると見込まれています。
アジア地域以外の海外進出にも積極的だね!
2024年12月期 第3四半期の決算まとめ
JTは2024年10月31日に、2024年12月期の第3四半期決算を発表しました。
決算内容として、24/12期3Qでは通期計画の上方修正(売上高+545億円、営業利益+280億円)を発表するなど好決算となっています。
なお、当期利益に関しては前回見込み比-80億円の下方修正となりました。
これは、金融損益の悪化及び法人税負担の増加に加え、VGR買収関連費用を反映したことによるものとされています。
2024年度通期に対して、3Qまでの売上高の進捗率は75.7%、当期利益の進捗率は94.7%と好調。
このような好決算になった要因は、主に以下の2つです。
- 底堅いプライシング効果(値上げ)によるたばこ事業での増収
- VGR買収による効果
本業であるたばこ事業での増収は今後においてもポジティブな内容と言えるでしょう。
継続的なたばこ事業での増収には安心できるね!
JTの株価や配当は今後どうなる?将来性・見通しを分析
JTの今後はどうなっていくのかな?
以下の3点について詳しく考察していきましょう。
①減配リスクが大きい
JT株の減配リスクは大きいと言えるでしょう。
海外子会社への1200億円配当返還がきっかけとなり、JT株の配当上限額が減少する可能性もありました。
海外での事業展開に成功しているからこそ、海外子会社を配慮した財務管理はJTにとって非常に重要です。
今回は危機を乗り越えましたが、今後も高配当を維持していけるかどうかは懸念事項でしょう。
②さらに為替の影響を受けやすくなる可能性が高い
JTの売上収益の約9割をたばこ事業が占めており、その中でも海外(アジア地域以外)での収益が約7割のため、為替の影響は受けやすいです。
円安の恩恵を受けやすい銘柄だから、円高時の業績下落リスクもあるね…。
売上収益構造の推移から、今後も海外でのたばこの売上収益の割合が増え続けると予想されます。
海外の割合が増えるにつれ、JTが為替の変動で受ける影響も大きくなるワン!
③NISAでの人気は高配当の維持が鍵
ここまでたばこ市場の縮小やESG投資の流行による投資家離れなどマイナス要因を挙げてきました。
とはいえ、JT株はNISAで非常に人気の高い株であるのは事実です。
新NISAで1月の個人投資家による購入量No.1だったのがJT株だワン!
やはり高配当が人気の理由だろうから、JTは何としても高配当を維持したいだろうな…。
JT株は高配当株として人気なため、配当次第で株価が上がる可能性も、下がる可能性もあります。
今後の事業展開や業績、たばこ市場の動向にも注目していきましょう。
【まとめ】JT株を取り巻く環境は厳しい!慎重な判断を!
JT株を買ってはけないと言われる理由について、よくわかったよ!
最後にこの記事の重要なポイントをまとめます。
結論、JT株への投資は注意が必要です。
かぶリッジの結論
- 配当減少や株価下落のリスクが高い
- たばこ市場の縮小により、海外たばこに事業に頼るビジネスモデルはリスクが高い
- ESG投資の流行により投資家が離れるリスクが高い
JT株をこれから購入しようと思っている方は、配当減少のリスクについて十分に考慮する必要があるでしょう。
たばこ市場全体に加えJTの事業環境も厳しい状況が続いています。
また、ESGの観点からJT株を買うか悩んでいる方は、「たばこの健康被害」という一点に縛られず、ぜひ企業のビジネスモデル全体をみて判断してみましょう。
次の一歩として、高配当株についての記事を読んでみることをおすすめします。